■マコの傷跡■

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chapter 46



~ chapter 46 “対面” ~ 


彼と付き合ってしばらくした頃、このまま彼と結婚するのかな、という雰囲気になってきた。
私は27歳、彼は32歳だ。年齢的にはそうなってもおかしくない。
今までの彼氏に感じていたような不安は感じなかった。
彼と夫婦になり、同じ家に暮らし、生活をする想像図がぼんやりとだけど頭に浮かんだ。
そういう想像が出来る人とならどうにかやって行けるんじゃないか、と思えた。

彼と結婚の話が進み、お金を貯める為と式の準備の為、早めに一緒に暮らす事になった。
彼の実家に同居という形はとても不安だったけれど、結婚資金を貯める為の同居で
お金が貯まったらその家を出て2人で暮らす約束になっていた。
彼の実家の2階には昔、お婆ちゃんが使っていた台所があり、今は物置になっている。
それを使えるように片付けて、食生活は両親と別に出来る。

ところが、その台所を片付けている時に、その部屋で明らかに手編みのマフラーを見つけた。
私は今までずっと、そういう事にこだわる女の人はかっこ悪いと思ってきた。
友達から、彼氏の部屋で元彼女からの手紙などを見つけて怒って捨てさせた。という様な話を聞いた時も
小さな事にこだわってかっこ悪くてバカみたいだと思った。そんなの気にしなければいいのに・・・。
だから、それを見つけた時も別になんとも思ってないつもりだった。
態度にも出さず、“何とも思ってない、そんな物は気にならない”と思い込もうとした。
それでも、心の中は晴れなかった。認めたくなかったけれど、心の奥底では捨てて欲しいと言いたかった。

だいたいそういうつまらない物の積み重ねではあったけれど
私の中ではそういう不満がいくつも溜まっていた。
それを解消するには彼に話してしまうしかなく、
彼に伝えるには、そんな事を気にしている自分をまず自分で認め、
自分はそういう人なのだと自分で受け入れなくてはいけなかった。
好きだから気になる。好きでなければ気にならない。
今までもそういう自分を認めるのが嫌だから、好きでいることを止める事で誤魔化してきた様に思う。
きっと今回の事だけじゃない。私は今まで、自分で見たくない自分からは目をそらしてきたのだろう。

彼に対しては出来るだけ素の自分を見せるようにしてきたけれど
自分で認めるのも嫌な、そんな自分を誰かに見せたことなんてない。
でも、出来れば自分でも認めたくない様な自分の汚い部分も、
全部彼に見てもらわなくてはいけない。知っておいてもらわなければいけない。
自分の嫌いな部分を人に見せたら嫌われる事になるのではないかとずっと思ってきた。
でもきっと一生隠し続けるなんて出来ない。いつか分ってしまう事だ。
これでダメになるなら、結婚してもきっといつかダメになる。
やるなら結婚前にやらなければいけない事なのだ。

私は勇気を出して今まで溜め込んでいたものを残らず全部吐き出し、
自分はこんな汚い感情を持っている嫌な人間なのだと彼に告げた。
溜め込んでいた分、吐き出す時は激しかった。
話しながら、どうしてわかってくれないんだと怒った。
私にとって最後の鎧は「怒」だった。
今まで怒りの感情を直接人にぶつけた事はない。
これで別れる事になるかもしれない、と覚悟した。
それでも彼が受け入れてくれた時、結婚するならこの人以外にいないと思うようになった。

そして私が28歳、彼が33歳の時、私達は夫婦になった。


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